公益信託VOICE Vol.1「こどもの未来に、信託という選択肢を。」(前編)

公益信託VOICE公益信託のリアルを伝えるインタビュー記事

社会をより良くしたいという想いを、確かな仕組みで未来へつなぐ新公益信託制度——。
「公益信託VOICE」では、制度に関わる受託者・委託者・信託管理人など、様々なステークホルダーへのインタビューを通じて、新公益信託のリアルをお届けします。

Vol.1「こどもの未来に、信託という選択肢を。」(前編)

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえが語る、新公益信託制度の可能性

認定NPO法人全国こども食堂支援センター・むすびえ(以下、むすびえ)は、こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくることを目指して活動しています。全国各地のこども食堂や、その活動を地域で支えるネットワーク団体への支援に加え、企業・団体との協働、調査研究、広報啓発、運営サポート、政策提言など、その取り組みは多岐にわたります。
2026年4月に新たな公益信託制度が始まり、むすびえはNPO法人として初の受託者となりました。なぜ、従来の寄付や助成ではなく、公益信託という新たな「器」に挑んだのでしょうか。受託に至るまでの思いや道のり、制度に感じる可能性について、理事長の三島理恵さんと、公益信託の実務を担当する岸本英嗣さんに伺いました。

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「使って終わり」にしない。地域の支え合いを育てる新たな器

こども食堂を支える「地域のネットワーク団体」を、支えたい

―今回の公益信託は、委託者のどのような願いを受け止め、形になったものなのでしょうか。

三島: まず、むすびえが公益信託を検討する以前から抱えていた問題意識についてお話しします。
むすびえは2018年、「こども食堂の支援を通じて、誰も取りこぼさない社会をつくる」ことを目的に立ち上がりました。個々のこども食堂を支援することはもちろんですが、私たちが大切にしてきたのは、こども食堂が地域に開かれ、無理なく、楽しく活動を続けられる地域環境をつくることです。
そのために欠かせないのが、各地域でこども食堂を支えているネットワーク団体の存在です。むすびえが全国47都道府県のこども食堂を直接、網羅的にサポートしようとすれば、非常に大きな組織と機能が必要になります。一方、地域の中で人と人との支え合いが増えれば、こども食堂は立ち上がりやすくなり、運営者に過度な負担がかからない環境も育っていきます。そして、何より地域の主体性や地域活動への参加の機会、顔が見える関係性を大事にしていきたい。地域の実情をよく知るネットワーク団体を支えることは、地域全体の基盤を強くすることでもあるのです。
ただ、ネットワーク団体の役割や価値は、外からは見えにくい面があります。「個々のこども食堂や子どもたちを支援する」ということは伝わりやすくても、その間をつなぐ中間支援に寄付をする意義は、なかなか理解されにくい。だからこそ、むすびえでは設立以来、地域の中間支援の役割を持つネットワーク団体をどう支え、その活動への理解をどう広げるかを、活動上も経営上も重視してきました。

右:三島理恵理事長、左:岸本英嗣さん

右:三島理恵理事長、左:岸本英嗣さん

単年度の助成では支えきれない、地域の基盤づくり

―これまでも、助成金や寄付などを活用してネットワーク団体を支援してきたのですね。

三島: はい。助成金や寄付などを活用しながら少しずつ取り組んできましたが、中間支援の機能を直接、長期的に応援してくださる方との出会いは、決して多くありませんでした。
寄付は活動に使えば、その時点で一区切りになります。また、助成金も多くは1年、長くても3年程度で終了します。しかし、地域の活動はその先も続きます。増え続けるこども食堂を地域で支えていくためには、中間支援団体の基盤を中長期的に強化する仕組みが必要です。そこに、私たちは長年、難しさを感じていました。
2026年4月から公益信託制度が変わり、NPO法人にも受託者への道が開かれると知ったとき、「本来やりたかった地域の中間支援を、中長期的に支える器にできるのではないか」と考えたのが出発点です。
当初は、地域のネットワーク団体自身が、地域の金融機関などと連携して公益信託を活用する姿も思い描いていました。しかし、さまざまな方の意見を聞く中で、現時点ではガバナンスや体制面のハードルが高いことも見えてきました。
それならば、まず私たち自身が挑戦しよう。将来、地域の団体から相談を受けたときに、「私たちも経験しました。ここで悩み、こんな工夫をしました」と具体的に伝えられれば、各地域での活用につながるかもしれない。そう考え、2025年10月頃、組織として受託に挑戦することを決めました。

「500万円でも役に立ちますか」から始まった対話

―委託者とは、どのように構想をつくっていったのでしょうか。

三島: 受託に挑戦すると決めても、私たちだけで公益信託をつくることはできません。委託者や信託管理人を含め、どのような体制を組めるかを考え、委託者になり得る方々に相談しました。
その中で、株式会社ミダスプロジェクトさんが、系列の公益財団法人を通じてこども食堂に取り組んでいきたいという思いをお持ちだったことから、むすびえの構想をお話ししました。こども食堂を通じて地域の社会基盤を網の目のように強くしていきたいという大きなビジョンにも、共感していただきました。
ただ、最初から公益信託について共通理解があったわけではありません。ご相談した際には、「公益信託とは何ですか」「信託なら、何億円という単位の財産を託さなければならないのでは」「NPOが受託者になれるのですか」といった率直な質問がありました。
そこで、新制度ではNPO法人や個人も受託者になり得ること、寄付との違いなどを一つひとつ説明しました。委託者からは「500万円でも役に立ちますか」と尋ねられましたが、私たちは「役に立ちます!」とお答えしました。こうした対話を重ね、今回の公益信託が形になっていきました。

地域まるごと「こども応援」公益信託の全体像

地域まるごと「こども応援」公益信託の全体像

無理なくできることと、本当にやりたいことを重ねる

―500万円の信託財産を、具体的にどのような活動に活用する予定ですか。

三島: 地域のネットワーク団体を対象とした助成事業に活用します。助成事業を設計し、団体を採択して、資金面から活動を支えるという、公益事務としては比較的シンプルな仕組みです。
むすびえは2020年から助成事業に取り組んでおり、そのプロセスや運営のノウハウが組織内に蓄積されています。今回は、まったく経験のないことを公益事務に設定したのではなく、「無理なくできること」と「本当にやりたいこと」が重なる内容で申請しました。
地域のネットワーク団体には、こども食堂からの相談に乗る、寄贈品を分配する、こども食堂同士や行政、企業、ほかのNPOをつなぐといった、重要なコーディネート機能があります。その一方で、活動に必要なのは、人件費、事務所や倉庫の賃料、旅費・交通費、ガソリン代など、子どもへの直接的な支援効果が見えにくい経費です。こうした費用の必要性や、コーディネーターの価値は、まだ社会の中で十分に認識されているとはいえません。むすびえが行ったネットワーク団体の調査においても、NPO等が担うネットワーク団体の76.5%が財源確保に課題を感じていると答えてくれています。
公益信託は、地域のネットワーク団体の財務や組織の基盤を支える、新たな選択肢にならないかと考えています。

公益信託だからこそ、みんなで「器」を育てられる

―むすびえやこども食堂の支援にとって、公益信託は公益活動の源泉になり得るものといえるのでしょうか。

三島: そうですね。寄付者の方の思いを受け止めて活動することも、私たちが力を入れたいことを知っていただき、応援してもらうことも、これまでと変わらず大切です。
その上で、今回、公益信託という受け皿ができました。この器に新たな思いと資金を託していただくことで、信託をみんなで育て、広げていくことができます。そして助成事業を通じて、地域で子どもたちを支える活動を強くし、広げていきたいと思っています。
こども食堂が立ち上がりやすく、続けやすい地域環境は、1年、2年で完成するものではありません。地域のネットワーク団体の基盤強化も同じです。地域や社会が中長期的に向き合うべき課題だからこそ、「使って終わり」にしない枠組みが必要でした。
公益信託という器は、委託者の願いを起点に、受託者や信託管理人、寄付者など、さまざまな人が関わりながら育てていける。そこに大きな可能性を感じています。

<後編へつづきます>